下巻【運命の分かれ道】
俺、ココパンダーのタメロウは一匹でいることが好きな、群
れないココパンダーだ。群れの中に居ると、水面下の縄張り争
いや社交辞令の言葉の数々、恩を着せるための木の実のやりと
りばかりで嫌気がさす。恩を売るだの買うだの、そういった関
係に巻き込まれたくなかった。だから俺は群れから外れた場所
に寝床を作り、他のココパンダーと距離を取ったのだ。これで
もう俺は悩む事は無い。一匹だけでは生きにくい世の中ではあ
ったが、他のココパンダーとは違い、孤高に生きている自分が
好きだった。
俺が群れと距離を取ってしばらくすると、俺の寝床の近くに
幼馴染のユイユイが引っ越して来た。
「寝床が近い者同士、せっかくだから一緒におしゃべりでもし
ない?」
ユイユイの方が勝手に俺の寝床の近くに来たんだろと思った。
「ちょっとタメロウ!腐った木の実なんて食べないでよ」
うるさいな、誰かに頼るなんて御免だ。それよりは腐った木
の実を食べる方がマシなんだよ。
「まず、野性のワラビモンチに襲われた時に、
どうしてすぐ仲間を呼ばなかったの!?」
それはきっと――俺が頼まなくても、いつもみたいにユイユ
イが来てくれるんじゃないかって、期待してたんだ。
「独りで無茶をするなんて、
孤独に生きる自分に酔ってるだけだよ!」
ユイユイの方から俺を助けてくれることに甘えて、格好つけ
てた。一匹で生きていけるって周りから思われている、格好い
い自分を壊したくないから、いつも見栄を張ってたんだ。
「ユイユイ……俺は頑張ってない。ただの甘ったれ野郎だ。
ユイユイの優しさに甘えながら自分の力で孤独に生きてると
思い込んでる、馬鹿なココパンダーだ……」
いつも真っ直ぐ俺の目を見て話をする彼女の姿は遠く、
俺の目の前には完全な獣と化したココパンダーの姿があった。
ワラビモンチの投石によって野性と化したユイユイは、反撃す
るかのようにワラビモンチに向かって拳を放つ。ユイユイの鋭
い三段突きが急所に入ると、今度こそワラビモンチは気を失っ
た。
「だからって安心できる状況じゃないけどな……」
俺は一難去ったことに少し安堵した。しかし、本能の塊と化
したユイユイは、ワラビモンチの頭に生えている、ワラビそっ
くりの頭皮にかじりついたのだ。今のユイユイにはワラビにし
か見えていない、ということだろう。
「止めるんだユイユイ!
そんな変なものを食べるなんて、ユイユイらしくないぞ!」
ワラビモンチにかじりつくユイユイを引き剥がすため、俺は
ユイユイの胴体を抱えて力いっぱい引っ張った。しかし相手は
百戦錬磨のユイユイだ。彼女の力が緩まるはずもなく、俺では
全く及ばない。だからと言って、野性化したユイユイを認める
つもりも毛頭無かった。
1つ方法があるとすれば、俺が持っている武器だ。これで彼
女を殴れば、気絶させて正気を取り戻させる事が出来るかもし
れない。……運が良ければの話だがな。一番恐れている事は、
野性のユイユイの怒りを買ってしまう状況だった。怒ったユイ
ユイを正気に戻すために奮闘したなら、俺も野性に目覚めてし
まうことだろう。
「もし俺が野性に目覚めたら……ユイユイは悲しむんだろうな。
こうなったら――もう格好つけるのは、おしまいだ」
自嘲気味に呟いた俺は覚悟を決めた。大きく息を吸って――
生まれて初めて、ココパンダーの仲間を大声で呼ぶ。すると、
草木をかき分けて群れに属するココパンダー全員が駆けつける。
「タメロウが初めて仲間を呼んでくれたから、
全員で来ちゃったよぉ」
ユイユイが近所のココパンダーと呼んでいたヤツが、間の抜
けた声とは裏腹に俊敏な動きで俺の前に出た。
「ユイユイが怪我をして、野性に目覚めたんだ……
頼む、なんとかして正気に戻してあげてくれ」
近所のココパンダーは二つ返事でうなずくと、他のココパン
ダー達と力を合わせてユイユイをワラビモンチから引き剥がし
た。そしてすかさず跳躍をすると、ユイユイの鎖骨らへんを狙
い両手でチョップをきめる。ユイユイはあっという間に気を失
って、力なく森に倒れ伏すのだった。
「これで正気に戻ったはずだよぉ。
後はユイユイの好物の匂いで目を覚ますはずぅ」
近所のココパンダーがそう告げると、他のココパンダーがユ
イユイの鼻に新鮮なベリーを近づけた。すると、彼女は鼻をひ
くつかせて早速目を覚ます。
「…………あれ……私、元に戻れたの?」
そう言って瞬きを繰り返す姿は、いつものユイユイだ。俺は
安堵のあまり少しだけ涙する。不覚にも、彼女が俺を助けてく
れた時の気持ちが分かってしまい、苦い思いをした。
「そうだ、タメロウ無事なの?
私の怪我も少し頭が痛いくらいだし、
どうして……一体どうやって?」
俺が助けを呼ぶなんて考えもしない様子でユイユイが辺りを
見渡した。そこには群れの仲間が全員集結しており、暖かい眼
差しで俺たち2匹を見守っている。
「ユイユイが俺に教えてくれたんだろ」
俺は驚くユイユイの手を握りしめて、今まで孤高のココパン
ダーを装っていた自分が嘘のように、ありのままを声に出す。
「ココパンダーのみんな、助けに来てくれてありがとう。
――そしてユイユイ、いつも俺を助けてくれてありがとな」

こうして今までの自分を捨てた俺は、ユイユイや群れの仲間
たちと一緒に助け合い、笑顔が絶えない幸せな日々を送るのだ
った。

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